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水道の計画や基本設計の段階では,詳細設計を経ずに概算で工事費を算定する必要が生じます.概算工事費の算定には類似工事実績や見積もりが必要になりますが,収集や聴取に手間がかかります.また,関連機関が公表する手引きもありますが,その精度やカバー範囲の狭さなどが指摘されています. 特に近年はPPP方式の発注における上限価格の設定にこうした概算工事費が用いられることが増えており,精度の低さや利用者の算定条件・設計に対する理解の低さに伴う漏れ・抜けにより入札が不調になるケースが見られるようになってきました. そこで,全国の工事実績を決算書や入札情報から徹底的に収集することで,既に公表されている施設における概算工事費の精度向上を図るとともに,これまでの手引き等でカバーされていない施設の概算工事費の算定手法の形式知化に取り組んでいます.
水道は官が運営していることもあり,内部プロセスがブラックボックス化するAIは議会や市民への説明力が弱いため,水道事業への適用は長年見送られてきました.しかし,昨今のAIブームにより管路の事故リスク可視化や漏水検知,水質予測といった重回帰分析の延長線上にある分野や点検データの画像認識・診断といった業務にAIが利用される様になってきました. 水道事業は固定費が原価の多くを占める装置産業であり,特に管路はその約7割を占めることから,近年老朽化が進むこれら管路の更新費用をいかに抑えるかが各管理者の重要なテーマとなっています.樹枝状の導水・送水管路は手計算で口径の検討が可能ですが,ループ化されている配水管網は管網計算によって水圧を逐次確認しながら,桁数が兆を有に超える口径の組み合わせの中から更新費用が最も安価な管網を設計する必要があります. 水道計画の実務では配水管網の口径検討は経済流速等を基準としてかなりラフに行われており,最適解からかなり程遠いものです.また,大規模管網における口径検討は消火用水の関係で配水本管のみに限定されがちです.結果として,配水管の縮径が不十分に反映されたアセットマネジメント計画が策定され,最終的には水道料金改定率の高騰を招く一因にもなっています. そこで,機械学習の一種である遺伝的アルゴリズムを用いて管網計算を内在化させたこの組み合わせ計算を効率的に行う方法を研究しています.また,大規模管網でもこのアルゴリズムが適用できるように並列計算の適用やアルゴリズムの効率化に取り組んでいます.