The 11th International Symposium on Water Supply Technology
2019年4月11日
※本論文は会議公演集である点にご注意下さい
環境に適応した生物の進化と個体の地域間移動(移民)を管網設計の最適化に適用した結果が7月10日に第11回水道技術国際シンポジウムで報告される.このアルゴリズムは,個体群を単一の集団とみなす従来のアルゴリズムが抱える「初期収束」と呼ばれる問題を解消し,より最適性の高い管網をより高速に得られる可能性が高い.
ここ20年におけるコンピュータ自体の進化,並びに生物の淘汰過程や群れの知能など集団生物学的な様相を模倣した進化的アルゴリズムの登場により,人では解くことのできない非常に複雑な組み合わせ問題を比較的容易に解けるようになってきた.地中で密に張り巡らされた水道管網もその口径の組み合わせは莫大に存在し,与えられた水需要下で水圧や流速などの水理条件を満たしながら最も安価なシステムを構築しなくてはならない.そのため,水道管網設計でも進化的アルゴリズムを用いて最適管網を設計する試みが1990年初頭から継続的に行われている.特に,遺伝的アルゴリズム(GA)はその概念の容易さもあり,主流の最適化手法として長年用いられてきた.
GAはそれぞれ異なる組み合わせを有する個体の集合(個体群)を1単位として,その中で優れていない個体は淘汰する一方,優れた個体を基礎とした新たな個体を生成するということを繰り返すことで最適解を得るものである.しかし,ある程度進化が進むと個体群は相似する個体で満たされるようになり,それ以降進化を見せなくなってしまう「初期収束」と呼ばれる問題が指摘されてきた.
今回,長谷川らの研究チームは,気候や陸海空などの環境に応じた独自進化と移民による多様性という現実の生物界に着想を得た島モデルGAが初期収束を解決し,より優れた水道管網をより少ない計算回数で最適化できることを示した.島モデルGAは個体群を島と呼ばれる小さな個体群に分割し,それぞれでGAを並列分散的に実行するという形態をとっている.それぞれの島で独自に進化を遂げた個体は,ある一定の確率で別の島に移民し,移民先の島に多様性をもたらすことで初期収束を解消するという仕組みである.
著者らはこの島モデルGAを実際の管網に適用し,従来のGAとその性能を比較することでモデルの有効性を検証した.その結果,島モデルGAは解の最適性と再現性の双方で従来のGAを大幅に上回る最適化結果を得た.さらに,著者らは最適性の優れた管網ほど管網における流量と口径の関係が明確になることを見出した.そして,著者らは並列処理の適用にも試み,1/Coreとなるような計算時間の削減に成功している.
今回適用された島モデルGAは,従来のGAでは困難であったより大規模で複雑な水道管網に対する最適化の適用可能性を高めるものであるだろう,と筆者らは結論づけている.